私は私だけのみかた

しかし真に利己的に行動することは尋常の知性では難しい。

禁書目録8

良。
外伝的作品。
主人公は普段「幻想殺し」の少年、上条当麻なのですが、そのストーリーにおけるヒロインの一人「超電磁砲御坂美琴のルームメイトである空間移動能力者、白井黒子が今回の主人公です。二つ名がついてないあたりに格の違いが表現されていると思ってください。
脇役の脇役で魅力的な話が書けてしまうあたりで、この禁書目録の世界のできのよさとその世界の創り手である作者のチカラがわかろうというものでしょう。

普段の話と違うのは、上条はその異能力について全力を出し切っても「敵を通常の人間の力で殴り倒す」ことしかできないのに対し、彼女たちは素直に使えば「必殺」の攻撃しかできない、ということなのです。
超電磁砲の御坂」は世界最強クラスの電撃使いで、電撃の直撃をくらえば麻痺か即死。全力の一撃は金属片の電磁加速によるレールガンであり、威力測定するのに水で満杯のプールに手加減して打ち込んでやっとデータをとれる始末。
白井の場合は基本の攻撃が「手に触れているものを転送して相手の体内に送り込む」なので、転送先を重要な臓器に設定したらまさに致死の一撃です。逆にそれ以外の行動は無力に近い。今回の敵も、「必殺」しかできない子です。
でも、彼らは子供だし、どんな相手でもできれば殺さずに無力化したいと思っていて。必殺の超能力はあるのに「安全に取り押さえる力」には不自由していて。
そんな闘いで白井は苦闘します。自分がお姉さまと慕っている御坂が、自分にも秘密で苦悩している目的をつきとめたくて。お姉さまのそばに立ちたくて。

それにしても上条の視点で書かれた時にはわからなかった彼らの魅力が、白井の眼を通せばてきめんに良くわかってきます。
上条の視点では後から後から問題がわいてきて不幸だわ、周りの女性は天然ボケか不器用か子供か人造人間かばっかりで苦労するわ、超能力か魔術のキャンセル能力を持つ右手一本で事態を解決しなきゃいけないわ、でもう大変ですし、御坂なんてことあるごとにつっかかってくる小さい子(ただし怒らせると怖い)なわけです。
でも。
「必殺」の力で絶妙な手加減で戦い、殺さず、しかも一歩も退かない御坂。
得するような客観的な理由も、絶大な能力も、何もないのに命をかけて信念と拳一つで突っ込んで行く上条。
読んでいて白井の視点と同化しているときに見たそれは、強烈な憧れと自分の無力とを同時に感じさせてくれるのでした。こいつら、こんなに格好よかったんだっけ。
まあせいぜい御坂お姉さまの格好よさに惚れ惚れするのがよいのですわ!