Winnyと正義
まーこの問題言及すると色々と危ないんで、視野の狭い個人的な意見ですよー根拠のない印象ですよーと逃げを打ってから始めることにします。
まず市販のDVDやCDリッピングしてISOを放流したりエンコして放流するのは法律的にまずいわけです。公衆送信権の侵害。
それをダウンロードするのは道義的には悪事ですが裁く法律はありません。ただし、Winnyには自動で再送信してしまう機能がありますので、ある一人が自分に著作権のあるコンテンツまたは著作権フリーのコンテンツ以外を放流した段階で、その転送される経路にある使用者全員が公衆送信権を侵害したことになる*1わけですね。
それで正義の剣は振り下ろされました。Winnyで元のファイルを放流した人がbbs機能でスレも立てててipアドレスが判明して捕まりましたね。これは当然です。
しかし「大衆の正義」は放流した者には興味がないようですね。もっぱら叩かれるのはダウソ厨と作者でした。
私はとても不思議に思うのですが、ダウソ厨が叩かれる文脈はほとんど「有料の物をタダで消費するんじゃねえよこの泥棒」って感じなのです。これはとてもおかしい。彼らの悪いところは「転送したこと」であってダウンロードした物を消費したことではないのですよ。でも「転送してんじゃねえよこのカス」って責め方は聞いたことがないのです。
法律と「正義」が不整合を起こしているのですね。
じゃあ法律が間違ってるから直せば良いかというと、法律を決めるときにはそれなりに考えがあって今の形になっているわけで下手にいじるとまずいことが起こるわけです。*2
んで「正義」の要求からどうしてもWinnyを止めたかったんで幇助ってことにしてソフトの作者を捕まえたと。これ、かなり苦しいと思っています。普通に使ったら法がうまく適用できないので裏技使ったみたいな。
今、そのあせって無理をした「正義」の報いが世界に牙をむいています。巨大な、バグ修正不能な、BotNetの温床。
一回警察と作者が関係を持って裁判を起こされてしまった段階で、作者は実質的にソフトの修正が不可能になりました。裁判のためソフトを触れないからではありません。作者の「信用｣が落ちてしまいました。この段階でバグの修正版が出ても、個人特定可能なバックドアを仕込まれたかもしれないという疑惑がユーザに広がってしまって修正版の本格的な普及は困難でしょう。むしろ今出ている野良パッチの方が信用されると思います。野良パッチが警察から出ているかもしれない可能性よりも、共犯者である可能性をWinnyユーザは選択するでしょう。このへんは感情の領域だと思います。
警察は明らかに早まりました。そして失敗しました。彼らが彼らの正義の視点でやるべきはWinnyネットワークの根絶であって、戦術として作者を捕まえるのはまったくもって役に立たないどころか逆効果なわけです。たとえ難しくても、いたちごっこでも、末端で最初の放流を行った者を捕らえ続けてネットワークへの信用を失わせるのが最も効果的だったと思います。
ま、潜伏期間が長くて破壊的なワームをWinnyのセキュリティーホールを通じてばら撒いて普及した段階で一気に爆発させるのはWinnyネットワークの壊滅には効果的ですが、それ警察が実行可能ですか？明らかに犯罪行為ですけど。電磁的な記録を損壊しますよね。
正義のために振り下ろした剣は諸刃の剣でした。原理原則どおり警察が動いていればこんな危険な事態は招かなかったかもしれません。ネットワークは安全なまま縮小させる工夫が必要だったのです。もうこんな事態になってしまっては、私にはもうどうすれば良いかまったくわかりませんが。正義のために暴走したWinnyネットワークはいったい何を殺すことになるのでしょうか？
最期に、Winnyのバッファーオーバーフローを用いてそのネットワークに壊滅的な打撃を与えるさまを既に漫画の形で記述していた「アキバ署！」の瀬尾浩史先生に心から拍手を贈り、このぐだぐだな現状に対するぐだぐだな感想エントリを唐突に終わりたいと思います。
