私は私だけのみかた

しかし真に利己的に行動することは尋常の知性では難しい。

恐るべき旅路

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―

優。
火星探査機の長い長いみちのりを計画時から火星周回軌道投入断念まで、詳細にたどった本。
終わってみれば大失敗でああすればよかったこうすればよかったと思うことがある。しかし失敗したのが他人なら、特に自分と関係ないと思っている分野の役人なら、税金を無駄遣いしやがってと鬼の首を取ったかのように攻め立てることもあるだろう。
だがちょっと待ってほしい。*1あとから見れば自明だったと言えることでも、そのときそのときは最大限の努力の結果最善と思える判断をしていたとしたら?一方的に攻められるべきだろうか。その時点での制約について考え、その制約事項を改革していく方が良いのではないか。
この本を読むと火星探査機の生まれる前からの来歴を時代背景や当時の技術的・政治的拘束と共に歩むことができる。常に制約の中でベストを尽くし少しでも成果を挙げようとする理学者と工学者の姿に、工学をするものの端くれとして涙を禁じえない。お涙頂戴満載。感動のストーリーとして読むことができた。
でも、それだけじゃだめなんだってこともこの本は教えてくれる。本を読んで、じゃあ結局どうすればよかったのかと考えるとき、最後に立ちはだかってくるのはアメリカの政治の壁、文型の壁、資金の壁だ。そっからどうにかしなくちゃいけない。それは本来理学屋の仕事でもないし工学屋の仕事でもないけれども、確かに理学屋や工学屋がどうにかしなくちゃいけない問題なんだ。そうでなければ必要な金額の半分でチャレンジして10割の成果を出そうと無理をした挙句に失敗して無駄金を使うことになる。何百人もの研究者の数年の人生も無駄になる。そうなればそいつらを育てた資金もいくぶん無駄になってしまう。
そうしないためにはどうすれば良いんだろう?それを問題意識として提示してくれただけでもこの本の価値はあった。